「ヒロシマ、そしてフクシマ」を鑑賞して
萩原弘和
「ヒロシマ、そしてフクシマ」を鑑賞して
萩原弘和
これは日本人の撮れる映画ではない。「ヒロシマ、そしてフクシマ」を鑑賞して、率直にそう思った。
映画のポスターやパンフレットにマルク・プティジヤン監督の名前が記載されているので、日本人の撮った映画ではないことは明白であり、感想にもならない感想である。しかし、日本人のセンスやバイアスを通しては絶対に生み出せない映画であるという意味で、そのような感想をまず第一に抱いた。 広島、そして福島に始まり、東京やその近郊など日本各地で隠蔽されている「内部被曝」の問題。その核心に迫り、明らかにすることは、日本の政権にとって都合が悪いことはもちろん、そこで暮らしを営む多くの住民にとっても目を伏せ、耳を塞ぎたい事実である。そのような日本の状況下では、「内部被曝」の問題に切り込み、その核心を露わにする映画を制作し、商業的に成り立たせようと試みることは難しいことのように思える。それをフランス人の目線と感性で成立させたのが、この映画の監督マルク・プティジヤン氏であり、「ヒロシマ、そしてフクシマ」という映画が持つ意義の一つであるといえるのではないだろうか。
この映画には、鑑賞者に対して「内部被曝」の恐ろしさを赤裸々に伝える登場人物が次々に登場する。「東京は住めることころではなくなった」と言って岡山に移住した甲状腺の専門医。放射線が遺伝子に与える影響を研究するために何度も福島に蝶の採取に赴き、急性心不全で急逝した研究者。患者の証言や形態異常を起こした蝶の映像とともに、映画の鑑賞者に「内部被曝」に関していかに無知であったかを思い知らせる。福島の女性たちが原発事故後の政府の対応と日常生活に対する不安と怒りを内閣府の役人に訴える場面で、その担当役人らが閉口してもなおカメラを回し続け、それを公開したことも大きなインパクトであった。そのような衝撃的な人物とエピソードがこれでもかと登場する展開の中に、しっかりとした骨格をもたらし、映画として結実させているのが、肥田舜太郎先生の存在である。肥田先生の生き方、患者のために尽くす態度と人柄、一つひとつの言葉の重みが鑑賞者をこの映画に引きつける。若い軍医として治療にあたった「ヒロシマ」、そして5年前の「フクシマ」。この二つを経験し、「放射線というものは人間の手にはおえない」と言いつつも戦後70年間「内部被曝」の問題に向き合い続けてきた人物は他に類をみない。このテーマを題材に映画を撮るとすれば、世界中の誰もが肥田先生の存在を主軸に据えざるを得ないだろうということも、この映画を鑑賞して強く感じたことの一つである。
この映画の主張は日本で暮らす人々にとって耳の痛いものであり、フランス人の監督ならではの切り口であることは既に述べたとおりである。もちろん、この映画の主張は一つの見解であり、それが全て正しいわけではないだろう。ただ、日本で暮らす私たちには、何か一つの意見を鵜呑みにするのではなく、この「内部被曝」という問題について、広島福島の経験を踏まえて考え、語り合う責務があるのではないだろうか。放射線に「人権」をさらされ、世界の恒久平和を理念とする平和憲法を掲げた日本国民の責務が。日本人がそれを語りうきっかけの一つとして、この映画が広く受け入れられることを切に願う次第である。(人権・平和国際情報センター「HuRP通信」vol.114 荻原弘和)
寄せられたいくつかの感想
肥田舜太郎医師のことは、ご存知の方も多いと思います。広島原爆投下直後から広島市内入りし、軍医として数多くの被ばく者の治療にあたり、以来99歳になる現在に至るまで、約70年間被ばく者の声に耳を傾け被ばく者の治療を続けてきた方です。いわゆる「ピカ」を浴びておらず原爆投下後に広島入りした人が、ピカを浴びた人と同じような症状に苦しんだり死んでいくのを見て疑問を抱き、いわゆる「内部被ばく」の問題を日本でも最初に意識し最も長く追求してきた方です。米占領軍に、被ばく者の医療に役立つ情報・データを公開するよう何度も直談判し、3度も逮捕されたという正義と信念の人です。この映画はその肥田医師をフランス人監督が追ったドキュメンタリー。3.11後を生きる全日本人必見、と言ってもいい貴重な記録だと思います。(長谷川宏)
いわゆるヒロシマとフクシマを題材にして核問題をあつかったドキュメンタリー映画といえば、とかく深刻で暗いものになりがちですが、この映画はそうたしものではなく、鬼気迫る場面も当然あるものの、とても冷静で客観的に放射能の内部被爆の問題を、ある意味淡々と描き、しかも絶望的になっていません。それには、この映画における肥田先生の存在と人格が大きく寄与しているのではないでしょうか。(大徳哲雄)
ヒロシマ、そしてフクシマ 本日観ました。素晴らしい映画だと思います。
放射線が体内に拡がっていくアニメが恐ろしい! 疎開した子供たちを診る医師の言葉の厳しい現実、福島の女性たちの訴えと判断停止官僚…フクシマの現実を改めて突きつけられました。
そしてなにより肥田先生のお仕事と笑顔に打たれました。(小川和隆)