(15.8.7記)
日本国内はミニバンブームで5ナンバー近辺の手頃なセダンは本当に少なくなってしまいました。昔は花形であったコンパクトセダンですが、トヨタですらカローラはヴィッツベースをハイブリットで誤魔化し、プレミオアリオンはモデルライフ8年に渡る放置プレイな状況です。そのセダン不人気の波は、輸入車にも降りかかり、今でも国産車よりセダンは売れているモノの、その殆どがDセグメント以上の日本で若干持てあますサイズの車ばかりです。
10年以上前はDセグメントが、5ナンバー一杯一杯か少々はみ出るサイズでしたので、日本国内で乗るのに適したクラスでした。初代A4、BMW3シリーズ、ベンツCクラス、どれも使いやすいサイズに高品質で、国産車ユーザーの憧れの車だったりしたものです。でも現在では大きすぎるんです。ではそれより下のクラスで高品質なセダンを選ぼうとすると・・・無いんですね。VWがゴルフのセダンを入れなくなり、オペルやサーブの輸入は終了していますし、ラテン系は元々ハッチバック中心です。
ドイツ御三家でも、BMWの1シリーズは2ドアセダンですし、ベンツのCLAはスタイル優先の4ドアクーペみたいなものです。どちらも変化球なのに対して、アウディが日本市場に導入したA3セダンは実に真っ当なセダン。これこれこう言うのを待ってましたと言う人が、ミニバン全盛期の日本でも少なからず居ると思います。そんなA3セダンに期待を持って試乗しました。
まずスタイルはのびやかなA4やA6に比べればサイズ的制約がありますが、逆にそのハンデを凝縮感に転換して良いモノ風がビュービュー吹きまくっています。A1も同じように凝縮感で評価されているデザインだと思いますが、あちらはチョロQ的可愛さに振られています。A3は真正面からドイツ車としての質実剛健さとアウディらしい繊細さが感じられるデザインで、そう言う意味でも、これこれこう言うのを待ってましたと言う人が居そうです。
サイズ&スタイルで見事に期待に応えているA3ですが、ドアを開けて乗り込んでも期待は裏切られません。ベーシックグレードでも、当然のごとく安物感は皆無。同様のモチーフが多いエアコン吹き出し口も、凝りまくったデザインで、国産なら1パーツのところを何点のパーツで構成されてるのかと感心させられます。残念なのは、ドイツ車=銀色&黒内装が一番売れるから仕方ないんでしょうけど、ベージュやブラウン内装はオプションの革仕様しか選べないこと。ファブリックで明るめの内装は選択できません。350万円弱〜の車なんですし黒内装はムダに6種類も作り分けてるんですから、もう少しなんとかして欲しいところです。
エンジンを掛けて試乗を初めても、期待を裏切られる部分はほとんどありません。1.4Lダウンサイズターボは、常套句のようですが、過不足無く必要にして充分以上の力を発揮してくれます。ただ一点。アクセルの最初の一踏み目に若干の抵抗が有り、慣れないと強く踏みすぎて下品な発進になりがちです。アイドリングストップの始動のタイミングを自分でコントロール(ブレーキを若干緩めます。国産のようにハンドルを切っても始動しません)しないと、信号替わった→ブレーキ外した→アイドリングストップ解除始動のタイムラグ→アクセル踏んだ→すっと出ない→強く踏んだ→下品にギクシャク発進。となってしまいます。
乗り心地はボディの高い剛性感と、角を丸め直接的ショックを払拭した出来の良い足回りで、ドイツ車でいながら硬さは感じさせないバランスの良い乗り心地を提供してくれます。舗装の悪い道などでは正直結構揺すられますが、速度が60キロぐらいになるとフラットになり、この辺りもアベレージスピードの速いドイツ車らしいところです。
装着されているタイヤのロードノイズは結構過大でした。ほかの部分が静かなだけに目立つのかも知れませんが、走行距離3000キロ程度の試乗車でも、舗装の悪い路面では盛大に、そうでない路面でも終始ザーっという音がします。
と、気になる点は全て重箱の隅をつつくようなモノばかりです。全てにおいて、日本人が想像する少々お高いドイツ車としての性能、品質を満たしている、ザ・ドイツ車です。ドイツ車として期待して裏切られる点は全くないと思います。それでいてアウディらしいちょっとおしゃれな繊細さもばっちり表現できていて、指名買いした人は大満足で所有する喜びを感じられるはずです。
今も多少は残っていると思われる、代々カローラやコロナ(プレミオ)あたりを乗り継いできたお父さんの上がりの車として非常にオススメです。それらの延長線上にあるクラウンに行っても良いですけど、手頃なサイズや、人生1度は外車に乗ってみたかったという欲求に応えても、不満1ミリも出ない車だと思います。
唯一気になる点は、相当出来がよいと言われる新型パサートが、1サイズ大きいのによりお安い点。新型になって質感も上がっているので、ベースグレードのA3だとアレアレ?っとなることも。まー最初から書いてるように「ほどよいサイズの高品質セダン」として考えれば、Dセグメントでサイズ大きいパサートは脱落ですけどね(笑)。