プジョー 508SW アリュール

(15.8.1記)
 ※試乗車はマイチェン後走行距離350キロのバリバリのおろしたてでした。当然のように足回りなどは、これからよりメーカーが本来目指したモノに変わっていくと思います。

 先日試乗した新型プジョー308はとてもフランス車らしい、しなやかかつやわらかな乗り心地でした。508も雑誌記事などでは、マイチェンを機によりいっそうフランス車らしい乗り心地になったと記されていたので、大変期待して試乗したのですが、率直に言っておろしたての新車としてもかなり固い乗り心地です。

 また自動車評論家のフランス車の試乗記を書く際のテンプレート「旧型に比べて新型はフランス車らしいしなやかな乗り心地を取り戻した」詐欺に引っ掛かった気分です。フランス車の足回りが馴染んで本来の性能を発揮するのは、3000キロ〜という印象ですから、おろしたての試乗車で、その車本来のポテンシャルが発揮出来ているとは思えないのですが、それにしてもあまりにもな妄想記事です。

 乗り心地は現状どうひいき目で見てもフランス車というよりドイツ車の乗り心地に近いです。タイヤの硬さも感じますし、シートも布なのですがパンっと張っており、体に馴染むのに小柄な日本人では時間が掛かりそうです。ただ出来が悪いというわけではなく、日本人がフランス車に求める方向性と違うのでは?という感じです。フランス車らしくはないけど「良い車だなぁ」と思う場面は多くあり、1泊2日で借りていて1日目の夜は土砂降りだったんですが、初めて乗る車とは思えない安心感がありました。

 BMWと共同開発した1.6Lターボエンジンは、それまでのプジョー自製のモノに比べて燃費はよいですし、モリモリ感もかなり有り、大きなボディを過不足無く走らせます。これで1.5Lなら税金も安くて言うことないのですが。また長年日本人の感覚からするといまいちだったATですが、日本のアイシン製6速ATが導入されており、その変速はとてもスムーズでほとんどシフトショックを感じません。ただ唯一不満なのが、アクセル踏み始め一転がり目が素直に出ないことです。ガバッと踏むクセがある人には問題有りませんが、クリープを使って一転がり目をスムーズに発進させるような人には、かなり違和感が有ると思います。

 デザイン自体に面白味は感じませんが、コンサバなデザインほど質感もわかりやすくなるので、508もティアナ辺りと比べれば上質に思います。206から始まった過度な吊り目デザインは小型車には良かったですが、このクラスには、こういう端正な落ち着いたデザインの方が良いと思います。以前はフランス車と言えば、質感においては、ドイツ車、日本車と比べて大きく劣る印象でしたが、昨今のグローバルカー化で、国産での高品質な車作りが出来なくなった日本車に比べれば、フランス車の方が上なのでは?と思うことも増えてきました。ルーフレールの金属感には、近づいてみるとなかなかうならされます。

 先代407は大柄な割に、そのほとんどをデザイン代(しろ)に使っていたため、室内空間は良く言えばタイト、悪く言えば狭かったです。508は407よりさらに大きくなっていますが、フロントオーバーハングの縮小ホイールベースの延長で、407に比べれば真っ当な空間設計に近づいているとは思います。ただそれでもFFのこのサイズの車としては、後席ニースペースなどギリギリ許容範囲程度だと思います。カムリ辺りから乗り替えると狭さ痛感です。ここまでサイズが大きければ、荷室に関しては及第点なモノになるのは当たり前って感じです。

 特に空間設計がダメなのは、小物入れの類です。相変わらずグローブボックスが狭いのは仕方ないにしても、FRでも4WDでもPHVでも無いのに、センターコンソールが巨大な点。この巨大なコンソールにはケータイを置く程度のスペースしか有りません。本当この中には何が入ってるんだと開けてみたいです。どう考えてもバッテリーぐらい入ってそうなスペースがムダになっています。

 今のご時世一番の問題点は、このクラスの欧州車の多くが、色々な安全装備を全部乗せで来ているのに対してほぼ全く何もありません(笑)。現行プジョーのフラッグシップであるにも関わらず、これはかなり厳しいマイナスポイントだと思われます。

 総じて、質感もなかなか存在感もあり、価格帯もこのサイズで400万円を切るわけですから、充分お買い得なはずだったんですよね・・・パサートが無ければ。日本市場におけるプジョー508と言う車は、全ての点において「パサートが無ければ」と言う注意書きが付いた上での良い車です。

 値段は508が3千円だけ(笑)400万円を切ってるのに対して、パサートは373万円。エンジン、508が1.6Lターボで、パサートは1.4Lターボで自動車税が1区分け違います。重量も508が1.5トンオーバーなのに対してパサートは1.5トン内に収まりここでも税金が1区分け違います。ATも508が6速パサートは7速。カタログ燃費は508が13.6km/Lパサートは17.6km/Lで圧勝。安全装備は508何も無し、パサートはありとあらゆる最先端の安全装備が書ききれないほどてんこ盛り。リセールバリューにしても天下のドイツ車、VWにプジョーがかなうわけがありません。唯一エンジンパワーのみが508の勝っている部分と言えるでしょう。

 いや車なんて、スペックや性能だけでは比べられない良さが有るものです。それは充分わかっています。だったらこんなにドイツ車風な仕上げにしなければ良いのに。そう言うことです。508がフランス車らしい車で、ドイツ車、パサートのことが視界に入らないような個性のある車だったら問題有りません。でも、508を買おうと思う人は、多分パサートも比べてみたくなります。そして比べてみた結果、殆どの人がパサートを買うでしょう。508を買う人はパサートと比べなかった人だけです。

 本場欧州では、日本市場用の全部乗せとは逆の、何にも乗せないグレードが有るでしょうから、その素のグレード同士だったら508も勝負になるのかも知れませんけどねぇ。


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