10年上半期の新車チェック評

過去の新車チェックのポイントはあくまでも発売当時のポイントなので、今現在の国産車デザイン通信簿のポイントとは一致しません。

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1-貰っても乗らない。2-格好悪いです。3-普通。4-知り合いが乗ってたら嬉しい。5-今すぐ欲しい。

CR-Z(10.4.25記)

 ホンダハイブリッドの第三弾はスポーツカーCR-Z。F1から撤退し、NSXの新型がぼしゃり、インテグラもとうの昔に無くなり、シビックのタイプRは生産中止。ホンダファンが思い描く、スポーティーな会社からどんどん離れていってしまっているのが、現在のホンダだと思います。

 そんなホンダファンの溜飲を下げるため、と言うか、日本中のスポーティーカーファンが期待していたのが、ハイブリッドでスポーツカーなCR-Z。プロトタイプが発表されて以来、手ごろな価格で、それでいてハイブリッドでエコだと、これほどまでに期待された車は、最近あまり無かったのではないでしょうか?

 いつものごとく、発表時の混雑を避けて、ようやく現車を確認してきました。外観デザインはプロトタイプの雰囲気を有る程度再現できていると思います。少なくともプロトタイプと実車が違いすぎてガッカリと言うことは無いです。かってのCR-Xをモチーフとしつつ、現在の安全基準を満たして、低く幅広くスポーツカーらしいデザインに上手くまとめ上げていると思います。

 特にリアフェンダー周りのグラマラスな感じは、車のサイズを考えると(1740ミリ)とても贅沢に感じます(そのせいで視界も悪ければ、後席は満足に座れもしないのですが)。若干残念なのは、設定されてるボディカラーが少なく地味な点。唯一派手目なオレンジも、濁りが有るオレンジで鮮やかさに欠けます。納車を待てば、ホンダ純正色ならなんでも塗れる。ぐらいのオプションは欲しい感じです。

 インテリアのデザインも、正統的ホンダ宇宙船デザインで好きなタイプです。しかもハンドル脇に各種スイッチをサテライトスイッチ風に配するのは、80年代のスポーティーカーを彷彿させて心躍ります。いつものごとく、ランバーサポートが変な位置で張り出しすぎるイスは落第点ですが、そのポジションは最近の高い着座位置に慣れている感覚からすると新鮮で、スポーツカーに乗っていると言う気にさせます。

 インサイトに比べて価格が高いせいか、内装のプラッチッキーでちゃちい感じはかなり払拭されています。特にメッキパーツが塗装でなく、キチンとメッキなのが好感を持てます。前記したように、後席は大人はほぼ座れません。後方視界も絶望的ですが、元々スポーツカーは格好で乗るものでも有るので、視界の良いスポーツカーに乗りたければ、オープンカーを選べば良いだけの話です。

 総じてデザイン、サイズ、コンセプトは非常に良くできた車だと思います。手に余らないサイズで、誰が見てもスポーツカーと解るデザイン、それでいてハイブリッドでエコな車。世の車好きが望んでいた、今の時代に出すには鉄板過ぎる車です。

 では、手放しでベタ褒めできるかと言われると・・・実は微妙に残念な車に仕上がっちゃってるという印象です。そのマイナスポイントの殆どが、ホンダのインチキハイブリッドに有るわけなんですよね。この車にトヨタのハイブリッドシステムが搭載されていて、ホンダがプログラムを制御していれば、80点ぐらいの点数になると思います(さらに価格が20万安ければ100点ですね)。

 今の時代、「ハイブリッド」と言う免罪符があるから、この企画が通ったなんてのは十分に想像できますし、ユーザーサイドも「ハイブリッド」だからこそスポーツカーでも迷わず購入してくれるわけです。そう言う意味で非常に今的な優れたコンセプトだと思うんですが、この車が、このサイズ、デザインで、通常の1.5Lエンジンだったらとどうしても考えてしまいます。

 重いハイブリッドシステムを搭載せずに、ホンダ渾身の1.5LVTECエンジンとアイドリングストップ&ティーチングシステム(エコ時に緑になるあれ)を搭載する。そうすれば、名実共にライトウェイトスポーツの素晴らしい1台が生まれたのではないでしょうか?そして価格は200万円弱。多分これこそがスポーツカー好きユーザーが求めていた車だと思います。

 いや前記したように、ハイブリッドだからこそ売れると言うのはよく解ってるんですよ。ハイブリッドのエコイメージがあるから、隣近所に遠慮することなく買えるし、嫁の承諾も得やすい。でもホンダのハイブリッド技術では、燃費の良さは結局システムの重い分で台無しにして、さらにシステム分値段が高くなっちゃってるわけです。

 だったらホンダの燃焼技術を持ってすれば、ハイブリッドシステム無い方が、安くて燃費の良い車に仕上がるんじゃないでしょうか?そう言う懸念が拭えません。特にこの車はライトウェイトスポーツなわけですから、重さに関しては非常に重要な問題です。

 トヨタがスバルと開発している、ハチロクの後継スポーツにも言えるのですが、結局メーカーは販売サイドの「売らんかな」な提案に振り回されてると思います。スポーティーカーの企画時に必ずうたわれる。「若者の車離れ対策で、安くて手軽なスポーティーカーを作ろう」確かアルテッツァが開発されていた時も同じようなことが言われていました。ところが出てきた車は250万クラスなあの車です。

 とても若者の財布で買える車だと思えません。販売サイドは売るために、色々保険で注文をつけたがります。直6でないと。2.0Lでないと。FRでないと。今ならハイブリッドでないと。そう言う要望を聞いていると結局、出来は良いモノの高くて手の出ない車になってしまうわけです。そう言う本格的なスポーティーカーはスカイライン辺りに任せておけば良いのです。

 若者が買える車の上限はせいぜい200万円です。これでも高いぐらいで実際180万円ぐらいに押さえたいところです。排気量も税金を考えれば1.5L、重量も1トン切りたいところです。駆動方式は今の時代FRにこだわる必要は無いでしょう。FRにして開発費が掛かって高くなるぐらいなら、FFで安く作って、若者に買ってもらえるようにする方が先決です。

 まず車の楽しさを知ってもらえないと、FRの良さ云々まで辿り着く人が減るわけですから。180万円、1.5L、1トン。こういう車こそが21世紀のハチロクと言えるんじゃないでしょうか?少なくともアルテッツァではないですし、現在トヨタとスバルが開発してる車でもありません。

 ところが、CR-Zからハイブリッドシステムを除けば、これに近い車は作れるはずなんですよ。そう言う意味で、実に惜しい(笑)。ハイブリッドだからこそ成立する企画が、ハイブリッドのせいで、残念な車に仕上がってる。なんともジレンマを感じさせる1台です。

最大瞬間評価(目一杯ひいき目で見て)3(好)

ブーン(10.4.6記)

 ダイハツブーン。トヨタパッソと兄弟車です。と言うか、パッソの方はOEM供給車で、生産は全てダイハツのはずです。先代パッソは2代目ヴィッツがそろそろ出るかという頃に、先代ヴィッツベースで開発され、シャルマン以来のダイハツ←→トヨタの力関係を感じさせる車でした。

 最近発売されてるダイハツの小型車は、ほぼ全てトヨタとの兄弟車として開発されています。以前シャレードクラスはダイハツ完全オリジナルだったのですが、パイザー、YRVと立て続けにコンパクトクラスのハイトワゴンを外してからは、生産台数が増えるというメリットが有るので、トヨタの意向を元にしたコンパクトカー生産工場と化しています。

 このトヨタの意向というのがくせ者で、ダイハツとしてみれば、自社としては高い価格帯の車を開発しているつもりなのに、トヨタからすれば、自社のライオンナップで一番安い車を開発しているという、なんとも大きなズレが生じます。先代ブーンでは、そのトヨタの「安く作れ」という意向が大きく、なんとも軽自動車然とした安物感のあふれ出る車となってしまっていました。

 ダイハツは軽自動車の世界ではスズキとは違い、どちらかと言うとしっかりした車作りをして、安物感を感じさせないことが多いのですが、ブーンだけはとても安っぽい仕上がりとなってしまっていました。それもこれもトヨタに思惑が原因だったわけです。では新型はどうなのでしょう?相変わらずトヨタに安物作りを強制されてるのでしょうか?

 これが若干方向性が変わってきています。実車を見た感じでは正直そんなに安っぽくは見えません。と言うか殆どの販売店に置いてあるのは、高い方のグレード+ハナなので、その印象がより一層。新型の方向性は、どうやらちょっとおしゃれ方面。それも先代の道具感漂うおしゃれ感ではなく(無理矢理)、女性陣にこびこびなおしゃれ感です。

 簡単に言うと、日産キューブやスズキラパンが相当悔しかった感じ。トヨタ&ダイハツでは今までやらなかった方向の造形、やらなかった方向の配色にあふれています(特に内装)。既に大ヒットしたお手本があるので、作りは全体にそつない感じ。こういう世界観が好きな人はやられちゃうんじゃないでしょうか?

 ただこの車、トヨタ最下層クラスの割にはたいして安くないんですよね。おしゃれにしちゃった分だけ素直に値段が上がっちゃった感じ。そう言う意味で、冒頭の安物感は無くなったと言うのに繋がるわけです。

 外観の印象は、なんかどこかで見たこと有り。そう。タイ生産の新型マーチにそっくり(笑)。特に最初に発表されたののが、どちらもオレンジだっただけに、一瞬区別がつきませんでした。多分実車が出るとそれほど似てるとも思わないんでしょうけど(日産の方がサイドのボリュームに力感が有る感じですし)、これはどちらに影響があるんでしょう?

 常識的に考えると、後出しじゃんけんした方が、猿真似(同時期に開発されているのだから、真似するのは不可能ですが)扱いされて、貧乏くじな感じですが、今回に限ればそんな簡単な話では無さそうです。と言うのも上記したように、ブーン&パッソのお値段は、この不況下にしては結構強気な価格設定。対して次期型マーチは、タイ生産と言うことも含めてかなり攻めた価格になるらしいからです。

 車の世界では台数が売れた方が正義です。性能的にいくら優れていても、台数が伸びなければ負け。いくら先に出していたとしても、後出しで台数が出た方が勝ち。マーチの価格設定にもよりますが、久々に後出しする側の日産の健闘を期待したくなります。

最大瞬間評価(目一杯ひいき目で見て)3。

RVR(10.3.7記)

 三菱の新型車はまたもやSUVです。メーカーとしてはコンパクトSUVと言うところに鉱脈が有ると信じての発売なんでしょうけど、正直ミツビシャーとしては残念な新型車です。

 いや今のご時世ですから、そうそうセダン系のモデルなんか投入できないのは想像がつきますが、コンパクトクラスのコルトも7年間ほったらかし。軽自動車iのバリエーション展開も無し(iMiEVは別として)、各社のドル箱、セレナ、ステップワゴンのクラスも、隙間を狙ったデリカD5が不発でなんとも。

 なのにSUVだけは定期的に出してくるのは何故なんでしょう?エアトレック、アウトランダー、そしてRVR。大ヒットしてるとは思えないのに、どうしてこうSUVに傾倒してしまってるのでしょうか?確かに一般人の三菱車に対するイメージが、パジェロとランエボで埋められるのは想像がつきますが、だからといって一般の人がそうそう三菱のSUVを買うとも思えないんですよね。

 同じように過去の経営不振から立ち直りつつあるマツダが、デミオ、アクセラ、アテンザと自動車メーカーとして真っ当なラインナップのモデルを出し続けているのに対して、今の三菱のいびつなラインナップはどうにかならないのでしょうか?

 このRVRにしても、ちょっと懐かしい名前を復活させるのは、広告費にあまりお金を掛けられない現状を考えれば納得できますが、その成り立ちは、ただアウトランダーの前後を切りつめて1.8Lエンジンを載せただけ。車としての売りは優遇税制に対応したお得感のみ。こんなやっつけの新型車しか出せない三菱には、ミツビシャーとして本当にガッカリです。

 このお得感以外に車としての売りは全く無いと言ってよく、ギャランフォルティス以来のジェットファイターグリルも、結局どの車も同じ顔に見えるだけで食傷気味。内装もコストダウンの証明、プラッチック感全開黒内装一色。インパネデザインも平凡などこかで見慣れた形で、2010年の新型車としての新しさは感じません。

 確かに初代RAV4が掘り当てた、コンパクトSUVと言う鉱脈は、意外なほど日本ではほったらかしにされている市場かもしれませんが、そこを狙って投入するのであれば、もう少しデザインも含めて、熟成した商品で勝負するべきではないでしょうか?特に現状の三菱を考えたら、新型車はそんなに出せないわけです。1年に1台、あるいは2年に1台の新型車はもっと渾身の一撃と言える車であるべきでしょう?

 このRVRと前後して、日産はこのクラスにジュークを投入することを発表しましたが、そのデザインは飛び抜けて斬新なデザインでした。いや「今の三菱は外したら最後だから、こういう冒険は出来ない」そう言う意見もあるでしょう。しかし少なくとも今回のRVR程度のデザインでは、結局今まで三菱車に乗り続けていたミツビシャー達が、買い換える車もないので仕方なく買うだけです。

 最近の三菱のモデルチェンジは全てそうです。三菱車を買ってくれていた人しか相手にしていない。ブーレイ顔失敗で評価が低いですが、コルトやグランディスの発表時はこんな縮こまった思想ではありませんでした。他社からの乗り換えも視野に入れた攻めたモデルでした。

 結論として、こんな車は買う必要有りません。お得感があるからとこんな車を買ってしまうと、また10年乗り続けて、結局次買う車が無くなってしまいます。素直にインサイトでも買っといた方が幸せです。「三菱車が好きだから」リコール騒動が有って以降も三菱車を乗り続けてくれているユーザーに対して、こんな程度のでっち上げ車しか提供できない三菱には本当にがっかりです。

 ニッチを狙うのなら、しっかりと狙いを定めて行くべきです。またニッチを狙うからには、他社ユーザーも欲しくなるような車でないと意味がありません。ただでさえ少ない自社ユーザーのみが買うニッチ車って?(笑)。自社ユーザーのみが買うような車なら、数の出るコルトのモデルチェンジと、2.0Lクラスのミニバンの投入をすべきでしょう。

 プジョーシトロエングループとの資本提携も白紙に戻ってしまいました。自社で開発できないのであれば、207ベースのコルトとか、ほんのり期待していたんですけどね・・・SUV、EVは三菱、普通車はPSA。開発の棲み分けも実に良い案配だったはずなのに。惜しいなぁ。

 そうそう。車としての出来自体は悪くないらしいですから、どうしても欲しいと思う人は、発表日に各営業所に大量に配備された、カワセミブルーの新庫車がダブ付いてくるのを待つってのが正解だと思います。

最大瞬間評価(目一杯ひいき目で見て)2

アルト(10.2.18記)

 いまやスズキの屋台骨を支えるのはワゴンRですが、元々そのワゴンRのベースとなったのはアルト。しかし本来は派生車種だったワゴンRが、現在では先にモデルチェンジサイクルを迎えベース車となっている形です。

 アルトは既に昨年から欧州では新型がリリースされていましたが、あちらは当然軽サイズのくくりはなく、日本のアルトとは別物。見た目はそっくりなんですけど共通パーツは殆どなさそうです。と言うかホイールベースとか見ると、欧州版アルトは旧型アルトやスプラッシュベースなんでしょうね。

 先代アルトは、ペッキペキな箱の前後に円筒を二つ貫通させたような、大変攻めたデザインだったのですが、たぶんこのデザインは地方では理解されなかったようで、今回のアルトはもの凄くわかりやすく、ファンシーな方向に振ってきました。

 パッと見た目は可愛いだけのスタイルですが、よくよく見ると結構練り込まれた良いデザインです。軽規格という限られた寸法の中で、窓下のキャラクターラインからのふくらみなんかは、軽自動車の貧弱さを感じさせません。ボンネットの逆ぞり感とか、ルーフの補強にも有効そうなプレスラインとか、全体として、一見単純な形に見えてとても凝ったデザインだと思います。

 そんな好印象は内装にも続きます。今回のアルトもスズキによくある、コストダウンのための内装色1色固定です。今までのスズキならここで選ばれる色は、黒かグレー。どんなに外装色が鮮やかであっても、運転してる人自身がげんなり貧しい気分になる配色でした。しかし新型アルトの内装色はベージュ1色。実に華やいだ気持ちにさせてくれます。

 ベージュ内装と聞くと必ず「汚れが目立つ」とクレームを付ける人が居るらしいですが、少なくとも内装プラッチック部分は、家庭用洗剤に浸した雑巾などで簡単に落ちますし、シート布地部分もこのアルトでは、こげ茶を配した凝ったデザインの生地で汚れを目立ちにくくしています。

 質感自体も、まだサイドブレーキ部やウィンドースイッチ部などに安いプラパーツが使われていますが、全体的にはつや消しに統一された、てかてかしないプラッチックパーツで、先代よりかなり高品質に感じられます。何よりスズキの軽最大の欠点、鉄板のペナペナ感が、ドアの開け閉めで殆ど感じられなくなっていて好印象です。

 総じて今回のアルト。「スズキもやれば出来るじゃないか」と言う思いで一杯です(笑)。

 ただ最後に苦言も一つ。スズキの見切りの企業姿勢には何度も苦言を呈してきましたが、基本的にその思いは今回も変わりませんでした。と言うのもこのアルト、最上級グレード以外は、後部席ヘッドレストが付きません。標準で付かないと言うだけではなく、オプションとしても準備されてないのです。

 ただでさえ小さな軽自動車、衝突された時の衝撃は普通車より大きいのではないでしょうか?アルトの後席に乗った人は全員むち打ち必須です。それとも軽自動車で後部から突っ込まれると、後席の住人はどっちにしろ助からないとでも考えてるのでしょうか?

 本当、スズキのユーザーのことを全く考えてない「見切り」には毎度毎度げんなりです。いくら安く軽く作られてて、環境にも会社にも効果有りでも、肝心要のユーザーが貧乏くじ引かなきゃならないのはどう考えてもおかしい事です。

最大瞬間評価(目一杯ひいき目で見て)3(好)

タントエグゼ(10.2.4記)

 昨年末に発表されたダイハツの新型軽自動車タントエグゼ。その名前からも解るようにタントの派生車種なわけですが、少なくともドンガラは全くの新造。 ベースのタントが出てからまだ2年程度なのに、いくら売れるからと言って最近のダイハツ、スズキの粗製濫造ぶりにはうんざりです。

 そんなわけで、久々に試座通信簿で扱うのをスルーするつもりでしたが、たまたま時間が空いていて、たまたまダイハツの店が近くにあったので、結局見て来ちゃいました。と言っても、今更このハイト軽の仕上がりに語るようなところはそんなに無いわけなんですが・・・

 ベースのタントは、助手席側Bピラーが無いスライドドアが大きな特徴でしたが、タントエグゼは通常の4枚ドア+テールゲート。Bピラー無い分の補強費や、電動スライドドア分、お金が掛からないため、タントより高級に振ったと言う割には、それほど値段は高くなっていません。でもBピラーの無いスライドドアが現行タントの売りだったわけですから、通常の4枚ドアのこの車は、タントと言うより、ムーブの派生車種と言うべきなんじゃないでしょうかね?

 外装デザインはどこかで見たこと有る系。タントのぬぼーっとした独特の存在感は、全く感じられません。タントのデザインを好きになれない人に買わすのであればこれで良いのだと思いますが、その形はどちらかと言うとムーヴやミラ寄り。やっぱりタントの派生車という感じはしません。

 内装は良い点と悪い点が有り。ベージュ内装は明るい雰囲気で良し。ダイハツがたまにやっちゃう、なんだかよく解らないところにインパネの分割線がきちゃうなんて事も無く、シボの質感も良くて、十分に高品質と言って良い仕上がり。

 ただ問題はスライドできるリアシートに。シート下部が足下まで一体成形なのは、ソファのようで高級感の演出に繋がっているけど、実際使うとなると雨の日の靴などで汚れること必須。雰囲気を取るか実用を取るか、ユーザーの判断はマイチェンの時に出そうです。

 それより問題なのは、このシートを前進させると、リアホイールハウスとシートの間にぽっかりと穴状の隙間が出来てしまう点。後席には子供が乗ることが多いだけに、ここに足首を挟んでケガをする可能性が高そうな感じ。通常のベンチ風のシートデザインではなく、ソファ風のシートデザインが、この穴を生み出しているので、こちらは何らかの改善が早期に必要だと思います。 

 既にそれなりに完成され、人気のタントベースですから、車としての仕上がりにそうそうおかしなところは無いはず。欲しければ買っても良いと思いますが、なんか志が低い気はしますねぇ。

最大瞬間評価(目一杯ひいき目で見て)2。

フーガ(10.1.2記)

 伝統ある車名を片っ端から消していった日産は、長い間フラッグシップサルーンとして貢献した(プレジデントやシーマは取りあえず置いとく)、セドリック、グロリアの名前も廃止し、その変わりに日本語の風雅から来るフーガを導入しました。

 初代は、キャビンの小さい古いプロポーションだったセドグロと比べると、遙かに現代的なプロポーションとなり、その形もクラウンコンプレックス、メルセデスコンプレックスの無い健全なデザインでした。北米ではインフィニティブランドで、フラッグシップクラスのQシリーズの変わりになるMシリーズとして販売され、それなりに好感を持って迎え入れられました。総じてセドグロからフーガへのモデルチェンジは、そこそこ上手く行ったように思えます。

 ただ正直先代のフーガは、あの当時の日産の実力、体力を痛感させられる仕上がりでした。日本人的繊細さを表現しているクラウンに対して、どうしてもセドグロから続く大雑把な感覚を払拭出来ていない点。クラウンとフーガが並ぶと、フーガの方が安っぽく見えてしまうのは明らかで、結局フーガを選ぶ人はセドグロ時代と変わらず「クラウンじゃない高級車」とか「クラウンより多少下品な高級車(褒め言葉)」と言う観点で選んでいたように思えます。

 スカイラインが北米インフィニティブランドで売れ、新型の開発にお金が掛けられたように、2代目フーガもセドグロ時代とは違って、最初から世界市場に投入するだけの予算で開発されたようです。それはドアを開け運転席に座るだけでも感じられます。先代がどちらかというとビジネスライクな印象だったのに対して(後期モデルではそれなりに頑張ってましたが)、新型は誰がどう見ても高級車の室内にしか見えません。

 先代発表時に苦言を呈した、薄っぺらな木目調パネルをただ貼っただけの加飾も、新型ではどの木目部分にもエッジにメッキを配置する細やかぶり。とても日産の仕事とは思えません(笑)。つや消し木目パネルでミソを付けたクラウンより、遙かに高級に見える仕上がりです。

 ただ高品質のキモとも言われる、パーツとパーツのチリの合い具合は、まだまだ日産品質。トヨタやVWには及びません。モデルチェンジ直後の初期生産車で、生産品質が安定していなかっただけかも知れませんが、筆者が見た車では、フロントバンパー部分と、フェンダー部分。材質で言うとプラッチックと金属が繋がる部分のチリが均一でなく、目立ってしまっています。

 品質論を語る時に必ずこの「チリ」の話題が出てくるわけですが、筆者自体はチリがそんなに狭くなくても良いじゃないかという考えです。「チリが何ミリで均一」とか正直バカバカしい話だと思います。このフーガも、変にチリにこだわらず、バンパーとフェンダーのつなぎ目には隙間は有るものとしてデザインすれば良いモノを、変にこだわるから、違う材質同士が触れ合う部分の、塗装の厚みの差が気になってしまうわけです。

 確かに等間隔で、チリがビシッと有っていると気持ちが良いものですが、今回のフーガとクラウンの内装を比べて解るように、そんなモノは、デザインや材質でいくらでもカバーできるわけです。そんなところに無駄なお金を使うのなら、もっと別のところにお金を掛けた方が、誰もが幸せになれるはずです。

 外観デザインは、フロントに先代の面影を残すモノの、その方向性は大きく変わりました。「今時こんなヌメヌメしたデザインで来るかー」とかなり驚きです。そう言う意味では2代目も、クラウンコンプレックス、メルセデスコンプレックスを感じさせない、健全なデザインだと思います。

 正直日本国内でバンバン売れるかというと微妙な感じで、クラスが近いスカイラインと、パッと見の印象が似すぎてるのも、日本では裏目なんじゃないでしょうか?実車を見比べれば、フーガの方が遙かに抑揚が強くえげつないデザイン(誉めてる)なんですけど、アコード、インスパイア、レジェンドが近すぎて、皆こけたのホンダのようになりそうな気がします。

 ユーザーが車に夢を持たなくなった日本で、トヨタ以外がこういう高級セダンを売るのは大変です。その為、世界中に売るのを前提として開発費を捻出しているわけですが、そうすると今度は、出来た車が全く日本国内に合わない車となってしまいます。そうするとまた売れないので、より海外向けにと言う無限ループが続くわけですが、フーガに関しては、対クラウンとしての立ち位置として、海外優先の車作りが良い方向に出てるかも知れません。

 冒頭にも書きましたが、クラウンではなく日産車を選ぶような人は、クラウンとは違う独特の存在感を支持してるわけです。それは時代によっては、下品なスタイルだったり、下品なエンジンパワーだったり(共に多分誉めてる)したわけです。このフーガにもクラウンの繊細な世界とは違う、一種下品な独特のえぐさが上手く出ていますが、それは海外市場に目を向けているから、醸し出されているのではないでしょうか?

 現在、セドグロやシーマをバンバン買ってくれた、中小企業の社長の懐は非常に厳しくなっているでしょう。だからフーガ、今回もバカ売れはしないでしょう。でもフーガが進む道はこの方向性で良いと思います。売れないからクラウンになる、ベンツになるではダメなのです。フーガのこの存在感は独特なんですから、北米や中国人にバンバン買ってもらいましょう。

最大瞬間評価(目一杯ひいき目で見て)3

 

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