(15.3.13記)
日産の試乗キャンペーンで、ノートX DIG-S
Vセレクション+Sefetyを一泊二日借りることが出来ましたので、じっくりと試乗しました。ノートは先代とは違い、一つ上のクラスだったティーダのユーザーをカバーするために、高品質なコンパクトカーを目指しているようですので、その辺の質感に対しての感想を中心に記します。
まずドアを開けて座って見ます。内装質感は普通のコンパクトハッチバックです。デザインが巧みだった先代マーチと同等か落ちるレベルです。中級グレード以上はピアノブラックのインパネと、メッキのドアハンドルが装備されますが、ただそれだけです。室内構成されるパネルはすべてプラッチッキーですし、せっかくのピアノブラックのパネルの縁取りは、安っぽい銀色吹きっぱなしのエセアルミ風です。台数が出るコンパクトカーにも関わらず、内装色は質感の差が目立ちやすいブラックのみで、コスト優先で1色にするならスズキのようにブラックは避けるのが正解だと思います。
パッケージング。クラス分けとしてはコンパクトカーに属すると思いますが、室内空間は上級車から乗り換えても狭さを感じることはありません。特に後席足下空間は広大で、前席に身長180センチの人が乗っても、後ろで同サイズの人が余裕を持って足を組めます。フィットのセンタータンクレイアウトのような飛び道具もなく、そしてそれなりに流麗なデザインを持っていながら、これだけの室内を生み出せているのは良いと思います。
では運転してみましょう。乗り心地は少なくとも市街地、時速60キロ程度までかなり良いです。しなやかで柔らかく、嫌な突き上げも少ない快適な乗り心地だと思います。ルノーとの技術の往来で、日産車の乗り心地もここまで良くなったのかと、一瞬感動しかけました(笑)。これにはアンコの詰まったルノー風のシートもプラスに作用していると思います。
ただそのソフトな足回りと引き替えに、80キロを超えた辺りから車の安定感はなくなっていきます。段差やうねりに煽られ、ぴょんぴょん跳ねて、速度を上げた時に欲しいフラット感はありません。どちらかというと今までの日産車が、低速での快適性は犠牲にして、接地感や高速での安定感を重視していたのとは逆のセッテイングで、日産車好きを戸惑わせるのではないでしょうか?柔らかな乗り心地だけではなく、ルノーの車が速度を上げるにつれ、フラットになっていくのを勉強して欲しいです。
1.2L3気筒エンジンにはスーパーチャージャーがついているのですが、その存在は殆ど感じません。昔のスポーティーカーに搭載されていたスーパーチャージャーとは違い、どちらかというと縁の下の力持ち的存在として、1.5L4気筒からダウンサイジングしたエンジンを助ける形のようです。期待のエンジンですが、運転席前方の遮音性が悪く、速度を上げるにつれ軽自動車のようなシャーシャー、ゴーゴーという低級音が響きます。重ねて、エコモードで運転していると、CVTや燃料噴射のセッテイングがかなりギリギリのラインのようで、エンスト寸前のような微振動がエンジンルームから伝わってき、3気筒エンジンを痛感させられます。
エコメーターのついている車にはありがちですが、エコランプ通りに走るとかなりトロく、自分の燃費だけが良くて、周りの交通の流れを乱すエゴ運転養成ギプスと化します。右折レーンなどで、エコモードのスタート性の悪さは、後続車にクラクションを鳴らされるレベルです。また回生ブレーキがついているわけでもないのに、ブレーキ初動に空走感があり怖いです。転がり抵抗の少ないタイヤの影響でしょうか?
正直エコの為にかなり車の印象は悪くなっています。ここまで限界ギリギリにする必要はあるのでしょうか?昔はパワー競争のカタログスペックの為に、実用域での使い勝手が悪かったりしましたが、今はモード燃費のカタログスペックの為に、車本来の質感が落ちてしまってるように思います。
ただ各社の思想やクセが出がちなアイドリングストップは、ノートのモノが一番使いやすく感じました。スズキのような走ってる途中からエンジンを切るような無茶もせず(停止前に再度アクセルを踏む場面などでかなり煩わしいです)、マツダのような、ブレーキの踏み方がていねいなドライバーには反応しない、運転下手向けセッティングでもなく、良いタイミングでキチンと効いて、再始動時の一拍遅れ感も少ない方だと思います。
総じて目指しているであろう高品質コンパクトカーのレベルには届いていません。確かに安全装備のてんこ盛りは素晴らしいですが、ブレーキ以外は正直ギミックにすぎません。むしろこれらの装備が本気で必要な、うっかりさんには、根本的に危ないので車の運転していて欲しくないです(笑)。
現在ヒット中のマツダのデミオ。多少価格が高くなってしまいますが、高品質なコンパクトカーとはああいう車であるべきなのではないでしょうか?車本来の部分を徹底的に煮詰め、誰が乗ってもわかる良い車にまとめる。ノートもデミオもハイブリッドのような最新技術ではなく、昔からのスーパーチャージャー、ディーゼルを使って、上質なコンパクトカーを作ろうとしたわけです。スタート位置は同じようだったのに、どうして出来上がったモノにはこんなに差がついてしまったのでしょうか?
マツダが正直に技術を突き詰めて高品質にしたのに対して、日産は有りモノにギミックを乗っけて高品質風にしただけです。ギミックを乗っけるならどうしてその分遮音に気を使わないのでしょうか?上級グレードのメダリストでも、遮音材は増やされていないとのセールスさんの説明でした。マツダは車本来の出来をしっかりと仕上げた上で、日産と同じような装備を乗っけているのですから、ノートがデミオに適うわけがありません。
マツダが走り込んで走り込んで納得の足回りを作り出したのに対して、なぜ日産はそれまでの自社の考えを覆しての、ふわふわでフラット感の無いセッティングでOKとしてしまったのでしょう?確かに街乗り向けのセッティングは悪くありません。でも今や自社で軽自動車を作っている日産です。軽自動車のようなセッティング、軽自動車のような遮音性、軽自動車のような3気筒エンジンのコンパクトカーでは、存在意義がありません。軽自動車とは違うコンパクトカーだからこそ、高い税金を払ってでもユーザーはコンパクトカーを選ぶわけです。
少なくとも先代の日産コンパクトカー群は、すべて特徴があり、すべてに優良な顧客がいて、良い車達でした。それが1世代変わるだけでどうしてこうなってしまうのか?メーカーが思ってる以上に、多くのユーザーは乗って解る人たちです。この程度のコンパクトカーを簡単に作ってしまうから、切磋琢磨しあっている軽自動車にユーザーが流れてしまうわけです。
メーカーとすれば、車種は少なくて台数が出ていればコスト的に一番良いのでしょう。先代がトヨタ的な、一つのプラットフォームから多くのバリエーション展開で台数を稼ごうとしたのに対して、今回はフィットとフリードだけで台数を稼ぐ、ホンダのような車種構成を目指したのだと思います。でもそれを実現するには、あまりにも車の実力不足です。こんなメーカーの都合を押しつけられる、ユーザーと現場のセールスマンが可哀想です。